遺品整理業は、一般的に「片付け」や「不用品処分」の延長として見られがちです。しかし、実際の現場に立つと、多くの参入者がその認識の甘さに直面します。特に最初の現場での判断は、その後の事業人生を左右するほど重大な意味を持ちます。一度の判断ミスが、法的トラブル、遺族との決定的な対立、業界内での信用失墜につながり、取り返しのつかない結果を招くことも珍しくありません。
なぜ「最初の現場」が最も危険なのか
新規参入したばかりの遺品整理業者は、「まずは実績を作りたい」「断らずに引き受けたい」という思いが先行しがちです。その結果、本来確認すべき事項を省略したり、依頼者の言葉をそのまま信じて作業を進めてしまうケースが多く見受けられます。
しかし、遺品整理の現場には、法律・感情・相続という三つの要素が複雑に絡み合っています。どれか一つでも軽視すると、問題は一気に表面化します。最初の現場ほど経験が浅く、判断基準が曖昧なため、リスクを見抜けないまま作業を進めてしまうのです。
法律の視点:遺品は「ゴミ」ではない
遺品は、相続が確定するまで法的には「相続財産」です。依頼者が「全部処分してほしい」と言ったとしても、その人が単独で処分権限を持っているとは限りません。相続人が複数いる場合、一人の同意だけで遺品を処分すれば、後から他の相続人との間で深刻なトラブルに発展する可能性があります。
特に注意すべきは、現金、通帳、印鑑、有価証券、不動産関係書類、契約書類などです。これらを業者の判断で処分・持ち出ししてしまうと、意図せず不法行為に加担したとみなされることもあります。「知らなかった」「言われた通りにやった」では済まされないのが、遺品整理の怖さです。
感情の視点:遺族は合理的な判断ができない状態にある
遺品整理を依頼する遺族は、大切な人を失った直後、あるいは喪失感が癒えない状態にあります。表面上は冷静に見えても、心の奥では強い後悔や葛藤を抱えていることが少なくありません。
作業中は「捨ててください」と言っていたものが、作業後になって「やはり残しておけばよかった」と感じることもあります。そのとき、業者が十分な説明や確認を行っていなければ、「勝手に処分された」「配慮がなかった」という不満が一気に噴き出します。最初の現場での対応が雑であれば、その印象は長く残り、クレームや悪評として業者の足を引っ張り続けます。
相続の視点:業者は判断者になってはいけない
遺品整理業者は、相続の専門家ではありません。にもかかわらず、最初の現場では善意から「これは残した方がいい」「こう処分するのが普通です」と助言してしまうケースがあります。しかし、その一言が後に「誤った判断を誘導された」と責任を問われる原因になることもあります。
遺品整理業者に求められるのは、正解を出すことではなく、判断を遺族側に委ねる姿勢です。業者がやるべきなのは、選択肢を整理し、影響を説明し、記録を残すことです。決断そのものを代行してはいけません。
最初の現場で必ず守るべき原則
最初の現場で特に意識すべき原則は、以下の点に集約されます。
・依頼者の立場と相続関係を必ず確認する
・処分の判断は口頭だけで済ませず、記録に残す
・迷う物、価値判断が難しい物は必ず保留にする
・業者が「決めた側」にならない
・説明と同意を段階的に積み重ねる
これらを徹底できるかどうかが、遺品整理業者として長く続けられるかどうかの分かれ道になります。
最初の現場は「練習」ではない
遺品整理業において、最初の現場は経験を積むための練習ではありません。むしろ、最も慎重であるべき本番です。一つひとつの判断、一言一言の説明が、その後の信頼や紹介、さらには事業の存続に直結します。
遺品整理とは、モノを片付ける仕事ではなく、人の人生と法的責任に触れる仕事です。その重みを理解し、最初の現場から自覚を持って臨めるかどうかが、業者としての質を決定づけると言えるでしょう。
安易な参入が増える今だからこそ、最初の現場での判断力と姿勢が、遺品整理業者の真価を問われています。
コメント